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-ぴよっぴよ。囀りparoxysm-
あい? 去年、こんなに厳しかったっけ?

紫念童子 [月夜晴雨]

月夜晴雨
つい最近この街に引っ越して来た私。

駅と自宅との往復の度に通り過ぎる場所があった。

この辺りはマンションやアパートが多く並んで居り、
その中に何か場違いな感じで一軒家が有るので
何となく気を引かれていた。

特に古びているとか、構造が変わっているのでは無く
ごくありふれた一軒家であるのに。

-----
いつもの様に家からの帰り、
件の一軒家の前を通り掛かる。

別に覗くつもりは無かったのだが、
見るとも無く観てみると、
何やら植物の手入をしていた。

塀越しなので、藤棚に伸びる手だけが見えている。

薄紫の綺麗な藤の花がそこここに咲いていた。

あまり植物に興味の無かった私は
さして気にも留めなかったが、
夏の終わり頃である。

今考えると、明らかに藤の花開く季節では無い。

その後も夕暮れ時にその一軒家の前を通ると
いつも藤棚を手入している。

ある日友人と呑みに出掛けていて、
いつもより帰りが大分遅くなった。

電車を降り、駅から出た時には
時計の針は深夜零時を回っていた。

マンション群の無機質な明かりの中、家路を急ぐ。
一軒家の前を通り過ぎようとして
何とは無しに眼が庭先に向く。

(まさか・・・!)

この様な時間帯に、やはり家の人は
藤棚に手を伸ばし、手入れ(?)をしている。
正直、背筋に冷たいモノを覚えた。

立ち止まってしまっている自分に気付き
立ち去ろうと思っているのだが、眼が離せない。

マンションの谷間になっていて、
そこだけ暗闇が蟠っている様な空間のはずなのに
藤の花と、その手だけ茫っと光っているかの様に
はっきり見えている!?

と、手がこちらに向かって近付いて来ていた。
壁越しとは言え、その人の全体が見えるのだろうと漠然と眺めていた。
時間は何か間延びした様にゆっくりと流れている。

ふわ、ふわ、と。
手に対して不自然な表現だが、
そう表現するのが最も合っている。

ふわ、ふわ・・・と。
なんと、私に近付いて来たのは、
“手”だけだった!

驚いた私は一目散に
逃げ走る・・・

しかしゆらり、ゆらりと頼り無げに見えるその“手”と
一向に距離が開か無い。
ついに、その“手”に右肩をツカマエタ、「あ゛っ!!」

という所で、目が覚めた。

何て酷い夢を見たんだろう・・・

-----

その後、かなりの遠回りになるが、
あの家を通る道は避けて自宅と駅を往復する様になった。

後日友人に頼み込んで、一軒家の様子を見て来て貰った。
確かに庭に藤棚らしきものはあったが、
既にボロボロになっていたと言う。

よくある怪談の様に、別段私の右肩に手形が残っていたという事は無い。
また、特に町で知り合いも居ないので、
「あとで聞いた所によると、−−−」という話も無い。

ただ、私の脳裏には
藤の花々の色彩とそれを愛でる手の
薄紫と白が鮮烈に遺っている。

(オラの体験談では無く、“聞いた”話ね。)
藤
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